STORY...
ふたご座の逸話

2123年夏、双子座生まれの人口は遂に3人となった。
3人は双子座の消滅を防ぐため、母星を離れ、宇宙へと飛び出した。
3人は最寄りのブラックホールを使って船が加速を始めるまで、しばらくカプセル睡眠に入った。
32時間後、3人は振動と警報器の音で目を覚ました。窓の外には重力場で歪んだ星空。近づき過ぎた!、と1人が叫ぶ。
そうして3人を乗せた船は、ブラックホールの重力に引き伸ばされ、方向も時間も失い、辛うじて船体を保っていた。突然、ひときわ大きな衝撃!船は何かに弾き出され、船は事象の地平線を脱した。(そう、それは山笠…)
船は制御を失い、そのまま見知らぬ自然豊かな「惑星」に落下し、その役目を終えた。

しばらくして、この星の支配者であるロボット達が3人の前に現れ、歓迎するでも拘束するでもなく、その場で機械的に立ち話を始めた。この星のロボットには、知性があるのかもしれない。
3人は、この人型の機械達に、旅の事情をひと通り話し、助けを求めた。読者は忘れているかもしれないが、3人の母星では双子座が滅びそうなのだ。
会話を続けるうちに、3人はこの星がまもなく滅びる運命であることを知る。
ロボットには心が無いので、好奇心をもって何かを創造する事はできず、文明や技術が500年以上も止まったままらしい。
その上、惑星は最寄りのブラックホールへ急速に引き寄せられており、あと20時間ほどで惑星は宇宙の塵となる。進歩なきロボット文明は、ただ消滅を待つ他無かったのだ。(かわいそうに)
3人はロボットと取引する事にした。ブラックホールの破壊を手伝うから、代わりに双子座である我々のクローンをこの星で造り、この星を双子座に支配させること。「星が救えるのなら」、とロボット達は快諾した。(ブラックホールが惑星に巨大な影を作る…。)

ブラックホールを何とかする段取りはこうだ。この星で最も強い爆弾「理論爆弾」を祭事用の宇宙船で運び、ブラックホールを無力化する、古典的だが確実なな方法だ。
「理論爆弾?」3人はロボット達の説明に顔を見合わせた。話によると、核反応や化学反応といった物理的な作用ではなく、理論によってのみ作成された爆弾らしい。
核反応や化学反応には限界があるが、理論や感情には限界が無い。この特性を利用し、理論を複雑にこんがらがせて爆弾に詰めておき、感情をきっかけに爆発させる。かつてこの星の人類が遺した最終兵器だが、この爆弾の作動により、宇宙船の操縦者はただ1人犠牲となり、ブラックホールは無力化される。
さてその夜、3人のうち誰が宇宙船に乗って爆弾の作動を見届けるか話し合われた。結論はなかなか出なかった…。
翌日、太陽とブラックホールが重なる昼頃、「2人」は宇宙船に乗りこみ、片道切符の旅に出発した。3人は話し合いの末、2人が犠牲となり、ブラックホールに向かう事にしたのだ。
余計な犠牲を選んだ理由は他でも無い、異文明の最終兵器・理論爆弾の作動を、3人とも間近で見たかったからだ。双子座の好奇心が、恐怖心に勝ったのだ。1人は渋々惑星に残り、クローンの基となる。
ブラックホールに向かう宇宙船の中で、2人は新たな母星が小さくなっていくのを眺める。しばらくしてブラックホールに突入する、重力に引き伸ばされ、方向も時間も分からなくなる中で、何かにぶつかり何かを弾き飛ばした。轟音と警報が鳴る中、2人は爆弾を、作動させた。後悔はなかった。さようなら、2人。

爆発により、ブラックホールの、その莫大な質量はあたりに散らばり、それらは新しい恒星となって輝き、新しい星座を作った。
惑星ではまもなく、残った1人のクローンにより新たな人類が栄え、この話を好奇心の星座と共に語り継いだ。夜空を指差し「ほら見て、あれが双子座だよ」と。
